「家を出たかったら、出てもいいからね」
社会人になった私に
父が言った。
いやいや、そんなこと言って本当は寂しいんでしょ?
と本心を疑いつつも、
通勤の負担を理由にして
実家を出ようと決めた。
念願のひとり暮らしだ。
実は、大学生の時も、
1年間だけひとり暮らしをさせてもらったことがある。
親にお金を出してもらい
アパート暮らしをした。
実家とは比べ物にならないくらい自由だった。
しかし、
社会人になってからのそれは
全くの別物であった。
どれだけ違うかというと、
お下がりのくたびれた洋服か
貯めたお小遣いで買った好きなブランドのネックレスくらい。
自分で稼いだお金で生活する醍醐味は、想像以上だった。
職場の近くでひとり暮らしを始めてから、
一気に模様替えをした。
家から持参した家具はほんの少し。
借りてきたハイエースの荷台に乗る量だけ。
親から
「この家具も置いてくの?」と何度も聞かれ、
「とりあえず今はいらない。必要になったら持ってくね」
と答えながらも
持ってくつもりはなかった。
なぜなら、
せっかくの私のお城だ。
お気に入りのモノだけに囲まれたかった。
社会人数年目。
決して裕福とは言えないお給料から、
自分基準で必要なモノを
揃えていく日々。
とても心地よい。
選ぶのも私。
買うのも私。
失敗してサヨナラするのも私。
全てが私の責任。
常にどこかで、
親の視線を感じていた実家生活。
これ買ったらどう思われるんだろう。
急に模様替えしたら怪しまれるのかな。
突っ込まれるのが面倒だから
何もしないでおこう。
今思えば、実家にいても、
もっと好き勝手にすれば良かったのに、
なぜか勝手に気をつかっていた私。
ひとり暮らしは、
物理的にも、
精神的にも親離れができるキッカケだ。
何が好きかわからん。
何を食べたいかわからん。
何をしたいかわからん。
「将来の夢はフツウのOL」と
全くときめかない大人像を
掲げていた小学生時代の私からは、
現在の私は想像がつかないだろう。
自分が稼いだお金で生きる楽しさは、
お金で買えない価値がある。
理由もなく窮屈で、
どうしたらいいかわからないなら、
まず我が身一つで実家を離れてはどうだろうか。
きっと、世界の色が変わって見える。