【コラム】なんとかなるよ

26歳。
仕事を辞めて、オーストラリアのワーキングホリデーに行った。

パースからダーウィンまで、
約2650㎞。
西海岸のロードトリップが始まった。

集まったのは大人5人。
ドイツ、アルゼンチン、日本。
出会ってたった一週間の彼らとの旅。

なんか楽しそうだな
という軽い気持ちでジョインして、
トランクギューギュー詰め込まれた荷物と共に出発した。

何が待っているんだろう。

心にあるのは、ワクワクドキドキ。
待っていたのは、
それを遥かに超えた、未知の体験だった。

広い砂漠エリアの道を走る。
徐々にガソリンのメーターが減っていく。

「大丈夫だよ」

誰かが言った言葉を鵜呑みにしていたら、
メーターはほぼゼロに変わった。
外はもう真っ暗。
お店は全部閉まっている。

私たちがいるのは、砂漠の中。
車は全く通らない。

私の心の中では、不安が募る。
「砂漠の中で、車がガス欠してしまうのか?」

次のガソリンスタンドは遥か遠く。
さすがに全員が焦っていたのか、車内は無言。
近くのキャンプサイトで一夜を明かし、
翌朝早く、できるだけ車を揺らさずに運転再開。

なんとか無事に走り切った……メーターは、もうゼロ。

「砂漠でカラカラになって発見」
というニュースだけは免れたようだ。

危険なのは砂漠だけじゃない。
深夜走行も注意だ。
オーストラリアの夜の道は、カンガルーさんの陣地になるからだ。

毎朝、
「日が暮れる前に、次のキャンプサイトに到着しよう」

と約束して出発するが、
守られることはほとんどなかった。

ある日、太陽が沈んでしばらく経ち、
無料のキャンプサイトにたどり着いた。

外はもう真っ暗。
電灯もおぼろげ。
手持ちのライトを駆使してテントを立て、なんとか寝袋に潜り込む。

ふぅ。今日もおつかれさま。

そして目覚めの朝。
なんだか外が騒がしい。
すぐそこで、大きい動物の鳴き声がしている。

一頭、二頭……いや。もっと。

恐る恐るテントの入り口を開けると、そこには牛がいた。

呑気に草をむしっている。
牛のテリトリーで寝ていたらしい。

なんでここにいるんだ?
恐らく、私たちと同じことを、牛たちも感じていただろう。

深夜の来訪、悪いことしちゃったかな。

それよりも、草食動物でよかった。
命の危険は免れた。
牛さん万歳。

深夜の砂浜で、立ち往生したこともある。

相変わらず
日が暮れても車を走らせていたら、
急に前に進めなくなった。

タイヤがからぶっている。
どうやら砂浜に突入していたらしい。

5人の知恵と道具を駆使しても、抜け出せない。
うんともすんとも言わない。
あいにく携帯の電波も通じない。

どうにもならないから、
みんなで楽しく記念撮影をし、
寝ることにした。

笑うしかない。
だって、どうにもならないんだもん。

朝が来て、明るくなったら状況が掴めた。

どうやら大通りからだいぶ外れた砂浜
にいたらしい。
車も、人も、全く見えない。
いつになったら発見されるんだろう?

ミイラ化して発見されたら、どうするんだ?
と焦っているのは、私だけ。

仲間たちは能天気で、
なんとかなるさ〜とくつろいでいる。
その気楽さを見習いたい。

ひとまず水と食料の残高を確認し、
数日は生きられそうだと確信した。
よかったぁ。

じっとしていても、時間が経つだけ。
誰も通らない細い道路を歩いてみる。

どれだけ歩いたかわからない。
しばらくしたら、偶然パトロール車が通りかかり、なんとか助けてもらえた。

あぁ。今回も、救われた。
神様仏様、本当にありがとう。

聞くところによると、
パトロールは数週間に一回しかここを通らないらしい。

翌日に発見してもらえるなんて、
なんてラッキーなんだろう。

そして、2週間かけて
無事に目的地に到着した。
もちろん、みんな元気な姿でね。

日本にいたら、
なかなかこんな経験はできないだろう。

波瀾万丈な日常も、
なんとかなっていく日常も、
とりあえず、なんとかなる。

笑って生きてりゃ、なんとかなる。

そのくらいの気楽さでいこうじゃないか。

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